Cafe de Panchito blog

西村秀人によるアルゼンチン、ウルグアイほかラテンアメリカ音楽について
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間近に迫ったギジェルモ・リソット来日公演に寄せて

間近に迫ったギジェルモ・リソット来日公演に寄せて
~ギジェルモ・リソットとアルゼンチン・ギターの伝統    por Hideto Nishimura


 今日、アルゼンチンのギタリスト、ギジェルモ・リソットが無事成田に到着したという。来日公演は明後日31日から6月半ばまで続くが、公演直前に思うところを少し記しておきたい。少し長くなるが、ご辛抱を。

Rizzotto 1st CD 809


 ここ数年アルゼンチンのアーティストの来日がいろいろ続いているが、そこで来日したカルロス・アギーレ、キケ・シネシを聴くのと同じような感覚でギジェルモ・リソットのアルバムを聴いて、その音楽性の違いにとまどった人もいたのではないだろうか。「今のアルゼンチン音楽」という話題性でアギーレやシネシと同じカテゴリーの中で彼を紹介していこうとする傾向があるようだが、実際の音楽のベースになっているものはかなり異なっている。

 最新作「情景の記憶~ソロ・ギターラ II」のライナーではアルゼンチン・ギターの伝統ということで、アタウアルパ・ユパンキの名が言及されているが、これまでアルゼンチン・フォルクローレをよく聞いてきた方なら、彼のスタイルはユパンキのそれよりもどちらかといえばエドゥアルド・ファルーの系列にあるということがおわかりだろう。
 エドゥアルド・ファルー(1923- )は現在89歳になるギタリスト・作曲家で、日本では戦後間もなくユパンキと同時期に紹介され、アルゼンチンの民俗音楽(当時は主にタンゴ・ファンの間で愛好され、「フォルクロリカ」と呼ばれていた)を代表する2大巨匠として広く知られ、初来日もユパンキより1年早い1963年だった。その後もたびたび日本を訪れ、昔からのファンにはなじみ深い存在となった(さすがに最近はほとんど活動の噂を聞かないが...)。土の香りをしっかりたたえたユパンキのギターや歌と比較して、ファルーのギターは高度なクラシックの技巧を民俗音楽の中に溶け込ませ、いわばホールで鑑賞できるギター音楽としてのフォルクローレのスタイルを作りあげ、現代性を反映した曲作りなども指向した。この2人の違いはユパンキがスペイン移民の子孫で、ファルーが少数派のシリア移民の子孫であることも多少は関係あるかもしれない。

 ギジェルモ・リソットの良き先輩・共演者であり、ファースト・アルバム「ソロ・ギターラ」に言葉を寄せているのが、そのエドゥアルド・ファルーの甥、アルフレド・ファン・ファルー(1948- )である。フアン・ファルーは今年来日のうわさもあるが、現代アルゼンチン・フォルクローレ・ギターの重鎮であり、数多くの弟子を育てた名マエストロでもある。一部にファン・ファルーがエドゥアルド・ファルーの息子であるという間違った記述があり、かなり時間がたつのにまったく修正されていないのは困ったことだ。特にWEB上のものはずっと残るので、気をつけなくてはいけない。エドゥアルドの息子は、かつて父と一緒に来日したこともある、フアン・ホセ・ファルーであり、同じギタリストだが別人だ(さらに、エドゥアルドのもう一人の甥にギタリストのヘラルド・マッチ・ファルーもおり、こちらも長年地道に素晴らしい作品を作り続けている)。

Eduardo Falu Ayer Hoy CD 812Juan Falu lo mejor CD 815
Juan Jose Falu CD 813Macchi Falu CD 814

 ファルー一家の中でフアン・ファルーはひときわ洗練された音色をもちながらも、クラシック然とした冷たい感じに陥ることは決してない(クラシック的で冷たい、という指摘は時折アルゼンチンの人からエドゥアルド・ファルーが受ける批判である。私は10数年前、ブエノスアイレスの複数のアーティストが登場するフォルクローレのコンサートで、エドゥアルド・ファルーのソロ・パートが静かすぎて聴衆の受けが悪かったのを目の当たりにしている。それでも最後に超絶技巧のカルナバリート「雪が降る」 Nevando estaで一気に聴衆を盛り上げて去っていったのはさすがだったが)。リリアナ・エレーロとの2枚のアルバム(「エドゥアルド・ファルー=ハイメ・ダバロス作品集」と「クチ・レギサモン=マヌエル・カスティージャ作品集」)を通じてファン・ファルーの弾きっぷりに魅了された人も多いと思うが、ソロだけではなく、他のアーティストとのコンビネーションでも素晴らしい実力を発揮するタイプというところは、ソロ演奏と弾き語りが主だったエドゥアルドとはさらに異なる点かもしれない(ファン・ファルーについてはいずれまたくわしく書きたいと思う)。

 ファン・ファルーの演奏を聴けば、ギジェルモ・リソットとの共通点は明らかに感じられるだろう。アギーレやシネシの音楽に比べると非常にクラシカルに思えるリソットの音楽だが、それはアルゼンチン・フォルクローレのギター・スタイルそのものがかなりスペイン系のクラシック・ギターの伝統と近い関係にあったからであり、アギーレやシネシのようにジャズ・フュージョンのスタイルをがっちり通過・吸収してきたアーティストは全体から見れば少数派なのである。

 そういう意味では現在日本盤で出ている2枚のアルバムに聞かれるギジェルモ・リソットのソロ演奏スタイルは、とんでもなく層の厚いアルゼンチン・フォルクローレのギター・ソロ演奏の典型であり、一聴するとその他の多くのソロ・ギタリストのスタイルと何が違うのか見えにくい部分があるかもしれない。しかしギジェルモ・リソットの音楽はいくつかの点で明確な特徴がある。まずサウンドである。これは物理的な録音条件、かつ技術的な問題でもあるが、ジャケット・デザインのセンスと同じく、ギジェルモ自身の美学が強く反映された響きになっている。1作目のライナーにもある通り、ドイツのECMレーベルの音楽を個人的に愛好していることもその表れといえるだろう。

もう1点の特徴は作曲の力である。アルゼンチンのフォルクローレ・ギタリストにはあまり作曲に重点を置かず、演奏・編曲に重きを置くアーティストも多い。アルバム全編を自作にするだけの力量があることも素晴らしいが、セールスのことを考えてもかなり勇気のいる決断といえる。そしてその作品群が形式やスタイルの面で非常に幅広い点も際立っている。これは普段から幅広くフォルクローレの諸形式に親しんでいないと書けるものではないし、歴史的なスタイルの変遷にも通じていないといけないだろう。フォルクローレのほとんどはもともと舞曲なので、形式は比較的シンプルでリズムや構成も決まりが多く、これだけバラエティのある曲を無理なく創作するにはしっかりした基礎が必要なはずである。

 さらにもう1点あげるとすれば、彼が現在スペインのバルセロナを活動の拠点にしており、より多様な音楽経験を積む機会に恵まれている点がある。現在出ている日本盤はギター・ソロのものだけだが、これまでにフルート奏者や歌手とのコンビによるアルバムも制作し、10年ほど前とはいえノイズ系の電子音楽にも取り組んでおり、YouTubeを探すとギジェルモがエレキギターを弾き、ベース、ドラムとトリオでノリノリのセッションをくり広げている映像なども散見される。そこでのギジェルモはまさにセッショニスタ(セッションを繰り広げるのが得意な演奏家)に徹している。ギター・ソロのアルバムにはジャズっぽい要素を全く感じさせないので、この映像には驚かされるが、自分の周りにあるいろいろな内外の音楽を統合して自分の音楽を紡ぎだすのではなく、その音楽ジャンルの伝統の中で自分のあるべき個性を創造していくことを指向している点は高く評価できる。

 なんだか私が本職で書く機会の多い、学生の推薦状のようになってしまったかもしれないが、とにかく今年33歳という若いリソットの音楽にはとても大きな背景があって、その中にあるさまざまなジャンルを飛び越えていくのではなく、しかるべき自分の音楽の在り方を実に慎重に考えているように思えるのだ。

 2作目にはやはり先輩ギタリストであるカルロス・モスカルディーニ(1959- )の賛辞が寄せられている。残念ながら日本語訳はなく、ライナーでも触れられていないが、モスカルディーニの賛辞は面白い。近年久しぶりにリソットの生演奏を聴いて、「アルバムと全く同じ演奏をしている、いや、それ以上の演奏をしていることに感動した」と書いている。さらに「アルバムを聴くのをやめることはしないでほしいが、是非生演奏を聴くことをお勧めする」とも書いている。アルバムの推薦文だというのに...モスカルディーニもファン・ファルー同様アルゼンチン・フォルクローレ・ギター界の重鎮だが、実は1999年民音タンゴ・シリーズでカルロス・ブオーノ楽団に参加してひょっこり来日している。ステージでは一部でソロによるピアソラ作品などを聞かせていたが、タンゴ楽団(キンテート)での役割もきちんとこなしていた。モスカルディーニも実はリソットとタイプが似ているような気がする。それだけにアルバム(録音)と生演奏の関係性に驚いた、というわけだろう。

Moscardini CD 816

 ギジェルモ・リソット本人の経歴や人となりについては1枚目のアルバム「ソロ・ギターラ」の解説(Hummock Caféの中村氏)に詳しいので、ぜひそちらを参照していただきたい。
 
 待望のギジェルモ・リソットのギター・ソロ・ツアー、実はエドゥアルド・ファルー、ファン・ファルーらに心惹かれた古くからのファンにこそお勧めしたいアーティストだ、と私は思うのである。
【 2013/05/29 (Wed) 】 ニュース | TB(-) | CM(-)
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